効率だけでなく非効率も大切に

私が約10年働いた霞が関(とその周辺)から離れてソフトバンクでお世話になった際には、その組織文化の違いに驚くことばかりでしたが、中でも印象に残ったことの一つが、一見して非効率であることも大事にしていることでした。

例えば、自分は政策渉外の担当でしたので、特定の技術を活用した市場が具体的に見えている際に、政策面にどのように落とし込み、具体化へのサポートを引き出していくか検討する作業に携わることが多々ありました。それでSBグループの中で担当するチームを探してみると、同じような技術を扱っていたり、同じような課題に取り組んでいるチームが、複数の部署で同時に走っていることを知り、とても驚きました。

というのも、霞が関では、基本的にそれぞれの省庁に分担管理事務が法律により設定され、省庁の中でも各局課に所掌事務が設定されています。縦割り行政の弊害、とよく言われますが、そもそも行政組織は縦割りにより効率的に業務を行うための設計がされており(なので縦割りなのはむしろ当たり前なのです…)、一つの事務は原則一つの課が担当し、責任を持ちます。その常識からすると、ソフトバンクにおいて複数の部署で重複する取組をしているということがとても非効率に思われ、「なぜ所掌事務を整理して効率化しないのか」と当初はいつも思っておりました。

ただ、なぜこのような仕組みになっているのかをベテランの方に聞くと、「これがいつものソフトバンクのやり方だ」ということで、よく聞くとそこには多様性や自主性の尊重という企業風土や、競争原理やアニマルスピリットといった熾烈な生存競争がもたらすものなのだということを、徐々に理解してきました。

行政という組織は、そもそも社会のために行政がすべきこととして法令に定められた(与えられた)事務を最も効率よく扱うために設計されています。ですので、仕事はそこにあるのが当然で、それをだれが責任をもって処理するかが重要視されており、そのために組織が設計されています。

逆にソフトバンクでは、やりたい人がその取組を進め、類似の取組と社内で競争し(もちろん他社とも競争し)、生き残ったものだけがさらに成長していきます。そこには競争にさらされるストレス(人材の定着にも影響しているかもしれません)や、勝ち抜いたチーム以外に掛けられた開発費や人件費などのコストも生じますが、それを必要経費だと考えれば、最も良いものを得られる可能性が高い土壌を作ることができます。また、いいものが成長できるチャンスが確保されている環境として、社員の自主性や多様な考え方を尊重し、その可能性を生かしてあげることにもつながります。

とはいえ、役所タイプの組織ではストレスがないかといえば、特定の事務の担当が決まっていますので、他に代わりがない中で課題に対応しなければいけないという重圧がかかるという側面もあります。また、このように責任の所在が明確になっていることで、その担当者は競争にさらされることなく、しっかりと腰を据えて課題に対応できるというメリットもあると感じています(いつも競争に追い立てられることで判断を誤ったり、他の要因を考慮せざるを得なくなるなどの問題もあるでしょう)。そもそも、ある行政手続きを複数の局課が担当しうるとなれば、どこに相談したらいいのかわからない、誰も対応してくれない、などの問題が起こることもありえます。

このように、それぞれの組織(やその文化)には長所短所があり、これはそもそもの組織の目的に即した設計であるという面に加えて、長い営みの中で徐々に育まれ蓄積されてきたという側面(経路依存)もあると思っています。ですので、すぐに変えるということは困難でしょうし、またその必要はなく、いまある組織・文化を生かしつつ取り組んでいくことがまずは重要だと、二つの組織を直接体験した身としては切に感じました。

(ところが巷では、「公務員は非効率な働き方をしている」と言われることが多いのですよね…それは組織設計の思想とはまた違う側面から、個々人の公務員の働き方を分析している言葉だと思いますので、また別の項で触れたいと思います)

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ところで、個々の組織のことを離れて社会全体について考えてみると、昨今の日本社会の風潮として、効率化を求める圧力が強くなってきて、例えるならばソフトバンク型のイノベーションを生み出すための、多様性や冗長性などを持っておくことが、社会の様々な局面で難しくなってきているのではないでしょうか。
(それはもしかしたら、「貧すれば鈍する」という言葉もあるように、経済成長が鈍り、人口減少への対応も必要になる中で、社会全体に経済的にも心理的にも余裕がなくなってきていることとつながっているのかもしれません。)

効率性の追求という考え方に反論することはとても難しいです。「無駄遣いはやめなさい」のようなシンプルなロジックに置き換えられた際に、どのように反論すればいいでしょうか。社会の様々な場面において、その流れに抗うことが難しいことが多いように感じており、自分もこれまでの仕事の中での様々な局面でその流れに直面し、考えさせられる経験をしてきました。

しかし、効率化が必要以上に追求される社会では、結局何も残らなくなり、人は幸せにはなれないのではないかという危惧を私は持っており、世の中がその方向に進みすぎることを抑えたいと思っています。次回以降、自分のこれまでの経験を踏まえた具体的な例を引きつつ、そのことについて皆さんにお伝えしたいと思います。